「おひとりさま」とは、明確な定義はありませんが、多くは死別や離婚で配偶者がいない人、一生独身の人を指します。また、独り立ちした子どもがいる人、兄弟姉妹や甥姪などの親族がいる人も含みます。人によって疎遠になっていたり、経済的支援は受けられない、受けたくないなど、いろいろな状況や考え方があります。結婚に対する価値観の多様化により、おひとりさまは今後も増えると想定されています。
(1)シニアの一人暮らしの割合
アクティブに活躍する60代以上もいれば、その逆の印象を与える40代50代もいます。介護保険制度やその他の制度で法的にいう、高齢者は65歳と定められています。令和2年、総務省によれば、65歳以上の一人暮らしの男性は約231万人、女性は約441万人で、65歳以上人口に占める割合でみると、男性15.0%、女性22.1%で、昭和55年時点から増加し続けています。また、令和4年度版の内閣府高齢社会白書では、65歳以上の一人暮らしは、男女ともに増加傾向にあると明言しています。
(2)シニアの一人暮らしの現状
「健康」と「経済状況」で、暮らしぶりを大きく分けることができます。謳歌している人、謳歌しているように見える人は、両方を持ち合わせているといっても過言ではありません。人生経験を経た「おひとりさまの自由」は若い頃、苦労を乗り越えた自らへのご褒美と表現する人もいます。しかし、そういった人たちは、将来の見通しが立てられるように、できる準備からはじめています。適切な準備のためには、自らのリスクを具体的に想定することが大切です。
(3)シニアの一人暮らしのリスク
ご自身が思い描いた老後の一人暮らしの危機にとどまらず、経済的な余裕がない生活になるリスクは三つ、「経済」「健康」「孤独」です。具体的に解説します。
●経済
現役時代の収入がなくなり、年金での生活になります。年を重ねるごとに、これまでの積立や退職金などの貯蓄を切り崩しながらの生活が想定されます。会社員として勤務していた人は、公的医療保険の保険料が全額負担になることを忘れてはいけません。また、介護保険料もサービスを利用していなくても年収に応じた納付義務があります。持ち家の場合は毎年の固定資産税がかかるだけではなく、火災や自然災害に備えた民間保険に加入している人も多いでしょう。また、トイレやキッチンなどの水まわりの修繕や家電の故障など、予測できない支出は経済的な圧迫を生じさせます。
●健康
高齢による体調の変化や体力の低下は自然なことです。そのなかで、「食費」を節減し過ぎたり、冷暖房や入浴に伴う「光熱費」を節約しすぎると、健康面に支障がでることがあります。そうなれば、「医療費」だけではなく、通院に伴う「交通費」もかかります。要介護認定がおりれば、公的サービスを利用できますが、非該当の(要介護者と認められない)場合は、病気の症状によっては買い物や自炊、身の回りのことができず、宅配弁当や清掃などの民間サービスの利用に頼らざるを得ません。また、治療の精神負担だけではなく、思い描いた老後とのギャップに疲弊するといったメンタルダウンで「おひとりさま」が孤独を強く感じる一因になることもあるでしょう。
●孤独
趣味活動や外食などのリフレッシュは、「おひとりさま」で楽しむのが好きな人でも、行く先々の人たちとの何気ない会話や些細なやりとりで、人とのふれあいを感じたり、日常生活にメリハリをつけるには有意義です。とくに、社交的な活動をしてきた人にとって、交流がなくなることは、刺激や自己肯定を感じる機会を失うことになります。また、認知症などの病気の早期発見や万が一の不測の事態に気づいてくれる人がいることは、安心につながります。老後の孤独は大敵です。老後こそ、孤独にならないためにも、ある程度の「娯楽費」「交際費」「冠婚葬祭費」を準備しておきましょう。
これら3つは相互関係にあります。リスクマネジメントする際、心にとめておきましょう。