法人の場合
法人が赤字決算となった場合のメリットは以下の通りです。
メリット❶
法人税が軽減できる
法人は、決算を迎えると法人税などの申告をしなければなりません。
通常は、年に1回の決算日を設け、決算日までの1年間で法人税を計算します。
1年間の利益(所得)を基に法人税額などを計算し、決算日の翌日から2か月後までに納税を行う必要があります。
会社を設立した初年度であれば、設立した日から決算日までの期間で法人税額などの申告と納税を行うことになります。
法人税額は、原則として収入から支出を差し引くことによって計算した利益(所得)に法人税率を乗じて計算します。なお、法人税率は、中小法人かどうか、所在地のある自治体や利益(所得)の額などによって異なります。
法人税額=課税所得金額×法人税率
法人税は利益(所得)が出たときだけに課税され、
赤字決算の場合は利益が発生していないため、法人税の支払いはありません。
関連リンク:
国税庁「法人税/法人税率」
メリット❷
赤字分を繰越して翌年度以降の黒字額と相殺することで、将来の法人税が軽減できる
赤字決算では利益が発生していないため、利益(所得)に課税される法人税はゼロになります。
また。赤字分は翌年以降に繰越すことが可能であり、税務会計上では繰越欠損金として扱えます。
翌年以降黒字でも
繰越した赤字は課税所得から控除できるため、翌年以降の法人税も抑えることができます。
法人の場合、平成30年4月1日以後に開始する事業年度については、
最大で10年間赤字を繰越しできます。繰越した赤字は最長10年の間で黒字が出た時に相殺することができるのです。
例えば、ある会社が1億円の赤字を出したとします。
繰越欠損金は最長10年まで繰越せるので、その1億円を何回かに分けて翌年以降の欠損金として計上することができます。
1億円の赤字を出してから最長10年の間に1億円以上の黒字を出せば、すべて相殺できる可能性があります。
ただし、このような赤字決算のメリットは、全ての法人が享受できるわけではありません。
資本金が1億円を超える法人の場合は赤字が発生した事業年度により各期において控除できる金額に制限があります。一方、資本金が1億円未満の中小法人(資本金5億円以上の法人の100%子会社などを除く)の場合は、黒字が出た期に、繰越されている赤字を全額控除することができます。
つまり、繰越欠損金が1,000万円あり、その期の利益(所得)すなわち黒字が500万円であったとすれば、500万円全額を控除することにより、その期の課税所得はゼロとなります。
中小企業においては各事業年度の利益(所得)において過去から繰り越してきた赤字を100%控除することができますので、資金繰りに大きなインパクトを与えるものになります。
欠損金の繰越控除をする場合、欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書(白色申告書も可)を提出している法人が対象です。
関連リンク:
国税庁「法人税/青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
メリット❸
法人税の還付金が受け取れる
中小企業は資本が充実していないため、赤字が出たときは前の期に支払った法人税の還付を受けることができる制度があります。
還付されるのは、前期に支払った法人税が上限となります。
前期より前に支払った法人税は還付されません。
青色申告書である確定申告書を提出している資本金の額が1億円以下の法人(資本金5億円以上の法人の100%子会社などを除く)が適用の対象です。
前期が黒字で、今期が赤字だったとしても前期が青色申告書である確定申告書を提出していなければ、利用することができません。
関連リンク:
国税庁「法人税/欠損金の繰戻しによる還付」
❷❸いずれの制度も、
青色申告書である確定申告書を提出していることが要件とされています。法人税の優遇制度をいつでも利用できるように、毎年青色申告書である確定申告書を提出をしておくことが大切です。
一方、法人は赤字が出たとしても最低限の税金がかかることには注意が必要です。
赤字であっても住民税には「均等割り」というものがあり、所得にかかわらず、資本金や従業者数に応じて課税されます。
また、資本金が1億円を超える法人は赤字でも事業税が発生します。
消費税の免税事業者でない限り消費税も支払わなければなりません。
個人事業主の場合
個人事業主が赤字の場合、確定申告をする義務はなく、申告をしなくても所得税は支払わなくて済みますが、赤字でも確定申告をすると以下のメリットが享受できます。
メリット❶
赤字分を繰越して翌年度以降の黒字額と相殺することで、将来の所得税が軽減できる「損失の繰越し」
個人事業で赤字(損失)が生じた場合、他の所得と「損益通算」しても赤字の場合には、損失申告を行った方がよいでしょう。
申告書を提出することで翌年以降3年間の繰越控除が認められます。
赤字(損失)分を利益で相殺することが可能であり、翌年以降黒字でも繰越した赤字(損失)は課税所得から控除できるため、翌年以降の所得税も抑えることができます。赤字(損失)は3年間繰越しでき、黒字が出た時に相殺することができるのです。
例えば、前年が200万円の赤字(損失)で、当年が200万円の黒字だったとします。
前年は課税所得がマイナスのため、当然のことながら課税されません。
一方、当年は課税所得が200万円ですが、その200万円に対して課税されるのではなく、前年の損失分である赤字200万円を繰越せるため、「今年度の課税所得200万-前年度損失200万=0円」となり、課税はされません。
赤字(損失)は最長3年まで繰越せるので、1年目に赤字額が大きく、2年目の黒字でも、3年目の黒字でも差し引き0にならなかった場合は、4年目にも1年目に出た赤字(損失)を繰り越して、黒字分から差し引きできます。
200万円の赤字(損失)を出してから最長3年の間に200万円以上の黒字を出せば、すべて相殺できる可能性があるのです。
ただし、このような赤字申告のメリットは、全ての個人事業主が享受できるわけではありません。
「損失の繰越し」は、青色申告書である確定申告書を提出している個人事業主が対象です。
青色申告では、その年に赤字(損失)が発生した場合に確定申告を行うことで翌年以降最長3年間にわたって繰越すことが可能となっています。
一方、白色申告では次の年に黒字となった場合でも、前年の赤字(損失)を繰越して黒字と相殺することはできません。
黒字の場合、そのまま課税されてしまいます。青色申告であれば赤字分を繰越せ、通算した利益に準じた課税となります。
メリット❷
赤字分を繰戻して前年度の黒字額と相殺することで、所得税の還付が受けられる「損失の繰戻し」
個人事業で赤字(損失)が生じた場合、❶の「損失の繰越し」を行わず損失額を繰戻しすることもできます。
青色申告書である確定申告書を提出している個人事業主が、今年度の事業所得などに赤字(損失)が生じた場合、前年も青色申告を提出していれば、前年分の所得税の還付を受けることができます。
去年は黒字で所得税を払ったけれど、今年は赤字で損をしました、という場合、去年支払った所得税の還付を受ける「損失の繰戻し」請求を行うことができるのです。
ただし、「損失の繰戻し」に関しても白色申告は適用外となります。
❶❷いずれの特典も、青色申告書である確定申告書を提出していることが要件とされています。
青色申告の特典を利用できるように、白色申告と青色申告の違いを理解し、
毎年青色申告書である確定申告書を提出をしておくことが大切です。
関連リンク:
国税庁「所得税/青色申告制度」
赤字の場合には確定申告の義務もないため、面倒な手続きはしたくないという方もいらっしゃるでしょう。
翌年に黒字が出るかも今年の時点ではわからないと思いますが、赤字でも青色申告をしておいた方が良いでしょう。
将来利益が出た場合、さらなる節税のメリットがあります。ぜひ活用してください。